私は以前、朝のテレビ情報番組で「新聞の解説」の仕事をやっていた。
『新聞のミカタ』というコーナーだった。
数年間、これをやってみて分かったことがある。
つまり、それぞれの新聞社が「今の時代でもっとも重要なテーマ」と認識する問題が「元日の一面トップ」に載るのである。
元日の一面トップの記事に、その日から始まるシリーズ連載の第一弾が載ることも多い。その時代や何が問題だと考えているかが一面トップの記事から伝わってくる。元日の記事を見れば、新聞社のヤル気と覚悟が分かってくるのだ。
では、2014年の元日、1月1日水曜日に新聞各紙は何を一面トップに持ってきたのかを振り返ってみたい。
この記事の重点は「沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海や南シナ海での制空権・制海権の確保に向けて攻撃力の強化を目指すものだ。新型装備の増強に加え、運用の近代化が実現すれば、日本や米国の脅威となるのは必至だ」という部分にある。
日本の自衛隊の仮想敵である中国軍について、中国軍の複数の幹部を取材して脅威の実態を探った記事だ。
文章として書かれてはいないが、日本の防衛体制は現状で大丈夫なのか?と読者に思わせるに十分な内容だ。
読売新聞にとって、日本の国防こそが重要課題であり、特に中国軍の動きには目を光らせていくぞという覚悟が読み取れる。
ただ、外交交渉では、相手先と水面下で妥協点を探るのは通常行われていることなので、それがけしからんとする論調は外交交渉術をあえて知ら
ないふりしているようでかなり意図的な印象だ。また、当時の「日本政府の関係者」だけに取材するという取材の薄さも気になる。2014年もこれまで同様に
一点突破の路線で、やっていくということなのだろう。
iPS細胞ひとつ考えても、そうした技術は確かに今後のビジネスのカギを握る一方、一歩間違えると「人間としてどこまで許されるのか」とい う倫理的な問題を突きつける。そうした時代にいるということを元日に伝える、というスケールの大きい世界観が日経新聞らしい。この連載が今後どこまで広 がっていくのが興味深いが、経済専門新聞としてはこうした方向性もありだろう。
安 倍政権が進めようとしている教育改革を前提として、どこが日本の教育の遅れている点がを先進地域の現状を紹介して行こうという試みだ。グローバルな人材を 育成するにはどうすればよいのか、と課題を探る連載で、韓国の済州島やアラブ首長国連邦のアブダビ、さらには長野県の軽井沢などに出来つつあある「グロー バル人材育成学校」を取材する。
朝日新聞として、「教育のグローバル化」が最重要課題だと認識しているのだろうか。
日本経済の将来に結びつくテーマであるので経済専門紙なら理解できるが、一般紙としてはどうなのか?
他にやるべきテーマがあるのではないか?
日本のジャーナリズム界で朝日新聞がこれまで果たしてきた役割を考える時、物足りなさを感じざるえない。
こちらも電力会社と地元自治体との密約を暴いたスクープ。
東京新聞の元日の一面の記事からは2つのことが読み取れる。
それは東京新聞が2014年も当局が発表する情報を元にした「発表報道」ではなく、記者個人の問題意識を重視した「調査報道」に徹するという覚悟を持っているということ。
さらに、東京新聞としては、原発の問題を報道の核として位置づけていくという覚悟を持っているということだ。
報道された内容も見事だったが、他の新聞とは明確に一線を画した姿勢が明快だった。
こうやって読み比べてみると、東京新聞のクリアさが明らかな一方で、新聞社としての覚悟をどこに置くのか不明な朝日新聞の一面トップの曖昧 さがとても気になる。毎日や読売の問題意識と比べても、芯が通っていない。リーディングペーパーとしての朝日新聞の立場を考えると不安を覚える。「報道の 自由」を制約するのが明らかな特定秘密保護法が誕生した現在、ジャーナリズムとして何をどう報道していくのかは国民の「知る権利」に直結する。その覚悟が 希薄な印象だ。
一年の計は元旦にあり、とよく言われる。
読者もぜひ正月の新聞記事を読み比べてみて、自分が購読する新聞を精査してほしい。
毎日毎日、新聞各紙を読み比べてみて、スタジオで気になった記事を解説する仕事だった。
数年間、これをやってみて分かったことがある。
新聞社では、日々の新聞の”一面の右上の記事”、つまり「一面トップ」の記事へのこだわりがとても強いということだ。
さらに毎年、正月、特に元日の一面トップにどんな記事を載せるかで、その新聞社がその時代その時代で「何が問題か」を各新聞が認識しているか反映されるということも分かった。
元日の一面トップの記事に、その日から始まるシリーズ連載の第一弾が載ることも多い。その時代や何が問題だと考えているかが一面トップの記事から伝わってくる。元日の記事を見れば、新聞社のヤル気と覚悟が分かってくるのだ。
では、2014年の元日、1月1日水曜日に新聞各紙は何を一面トップに持ってきたのかを振り返ってみたい。
読売新聞は・・・
読売新聞は、一面トップの見出しは『中国軍 有事即応型に』『陸海空を統合運用』『機構再編案 7軍区を5戦区に』とある。この記事の重点は「沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海や南シナ海での制空権・制海権の確保に向けて攻撃力の強化を目指すものだ。新型装備の増強に加え、運用の近代化が実現すれば、日本や米国の脅威となるのは必至だ」という部分にある。
日本の自衛隊の仮想敵である中国軍について、中国軍の複数の幹部を取材して脅威の実態を探った記事だ。
文章として書かれてはいないが、日本の防衛体制は現状で大丈夫なのか?と読者に思わせるに十分な内容だ。
読売新聞にとって、日本の国防こそが重要課題であり、特に中国軍の動きには目を光らせていくぞという覚悟が読み取れる。
毎日新聞は・・・
さて、毎日新聞の一面トップの見出しは、『中国、防空圏3年前提示』『日本コメント拒否』『非公式会合 発表と同範囲』。
毎
日新聞の記事は、読売新聞と同じように、中国との関係が緊張をはらみ、予期せぬ衝突が起きて戦争突入の可能性もある現状を強く意識している。昨年11月に
一方的に発表した防空識別圏について、中国が3年前に非公式会合で日本側に提示していたという事実を伝える。中国側の「野心」を暴く一方で、日本側もこの
情報を防衛省内や外務省、官邸などに上げてうまく処理できた可能性があったこともうかがわせている。
読売新聞のように中国側だけを取材したものでなく、中国軍、日本の防衛省、自衛隊のやりとりを多角的に取材した深みのある記事だ。
毎日新聞の記事は「隣人 日中韓」という連載を昨年末から始めていて、その第2弾としての立派なスクープといえる。
3面の「隣人 日中韓」の記事には『予期せぬ衝突 回避策急務』『緊張「いつ起きても…」』『交渉 靖国参拝で遠のく』という見出しが並び、自衛隊と中国軍との間で現場レベルの話し合いやホットラインが出来つつあったのに、首相の靖国神社参拝などの「政治」がその動きを止めてしまったことを報じている。
毎日新聞からは、こうした日中韓の3カ国の関係を「複眼的に」見つめていこうとする「覚悟」が伝わってくる。読売が対中国で「単眼的」なのと比べると物事を単純化しないで相手国の立場でも考えようとする姿勢が見える。
産経新聞は・・・
産経新聞の一面トップは、『河野談話 日韓で「合作」』『原案段階から すり合わせ』『関係者証言 要求受け入れ修正』というものだ。
平成5年の「河野洋平官房長官談話」が、原案の段階から韓国側とすり合わせていた「合作」だったとし、当時の政府関係者が証言したという内容の記事だ。2面で「河野談話の欺瞞性はもう隠しようがなくなった」と書く。日本側が自分自身で考えて発表したものでなく、韓国側と妥協点を探っていた産物だったので「欺瞞」だという展開。
産経新聞が2014年も従軍慰安婦問題など「歴史認識」に重点を置いていく、というヤル気と覚悟は伝わってくる。
日本経済新聞は・・・
日本経済新聞の一面トップは『空恐ろしさを豊かさに』という見出し。『常識超え新しい世界へ』という見出しも続く。
元日から始まった「リアルの逆襲」という連載の第1回の記事だ。
一度、絶滅した動物を蘇らせるようなバイオの科学が「空恐ろしい」一方で、ビジネスにもつながる面を強調する。
それはネットを使って、人間を格付けする技術も同様だ。ネット上の「いいね!」が多い人間ほど、政治でもビジネスでも高く評価される時代になりつつある。
iPS細胞ひとつ考えても、そうした技術は確かに今後のビジネスのカギを握る一方、一歩間違えると「人間としてどこまで許されるのか」とい う倫理的な問題を突きつける。そうした時代にいるということを元日に伝える、というスケールの大きい世界観が日経新聞らしい。この連載が今後どこまで広 がっていくのが興味深いが、経済専門新聞としてはこうした方向性もありだろう。
朝日新聞は・・・
朝日新聞の2014年の最初の新聞の一面トップは『めざす 世界の1%』『済州島に英語都市』『慶大中退 アブダビに』。
この日から始まった「教育2014 世界は 日本は」という連載の第1回で「グローバルって何」というタイトルがついている。
安 倍政権が進めようとしている教育改革を前提として、どこが日本の教育の遅れている点がを先進地域の現状を紹介して行こうという試みだ。グローバルな人材を 育成するにはどうすればよいのか、と課題を探る連載で、韓国の済州島やアラブ首長国連邦のアブダビ、さらには長野県の軽井沢などに出来つつあある「グロー バル人材育成学校」を取材する。
こういう連載そのものは否定しないが、しかし、これがはたして元日の一面トップの内容なのか?
日本経済の将来に結びつくテーマであるので経済専門紙なら理解できるが、一般紙としてはどうなのか?
他にやるべきテーマがあるのではないか?
日本のジャーナリズム界で朝日新聞がこれまで果たしてきた役割を考える時、物足りなさを感じざるえない。
東京新聞は・・・
こうしたなかで元日の一面トップでひとり気を吐いた印象だったのが東京新聞だった。
『東電 海外に200億円蓄財』『公的支援1兆円 裏で税逃れ』『免税国オランダ活用』という見出しの記事だ。
福島第一原発事故による経営危機で政府から1兆円の支援を受けている東京電力が海外で200億円の蓄財をしていたという事実をすっぱ抜いたスクープ記事だった。
また東京新聞一面では、この『東電 海外に200億円蓄財』のすぐ横に『浜岡増設同意 地元に53億円 中部電ひそかに寄付 80年代』という記事も載っている。
こちらも電力会社と地元自治体との密約を暴いたスクープ。
東京新聞の元日の一面の記事からは2つのことが読み取れる。
それは東京新聞が2014年も当局が発表する情報を元にした「発表報道」ではなく、記者個人の問題意識を重視した「調査報道」に徹するという覚悟を持っているということ。
さらに、東京新聞としては、原発の問題を報道の核として位置づけていくという覚悟を持っているということだ。
報道された内容も見事だったが、他の新聞とは明確に一線を画した姿勢が明快だった。
こうやって読み比べてみると、東京新聞のクリアさが明らかな一方で、新聞社としての覚悟をどこに置くのか不明な朝日新聞の一面トップの曖昧 さがとても気になる。毎日や読売の問題意識と比べても、芯が通っていない。リーディングペーパーとしての朝日新聞の立場を考えると不安を覚える。「報道の 自由」を制約するのが明らかな特定秘密保護法が誕生した現在、ジャーナリズムとして何をどう報道していくのかは国民の「知る権利」に直結する。その覚悟が 希薄な印象だ。
一年の計は元旦にあり、とよく言われる。
これまで見てきた通り、元日の一面トップを見れば、その新聞のその後の1年間の価値が分かる、というのが私の持論だ。