2014年1月25日土曜日

東海テレビの「セシウムさん」事件が問いかけるもの


東海テレビのセシウムさん事件は、すごく大きな問題を投げかけていると考えます。
少し前の原稿ですが、朝日新聞社の「Journalism」に書いた原稿を載せておきます。

http://www.asahi.com/digital/mediareport/TKY201111090338.html


【放送】「セシウムさん」が加速させた視聴者のテレビ不信2011年11月10日

 「けっきょく人の不幸は飯のタネだったのか!」

 「『つながろう』とか『寄り添います』とか言ってたのはうわべだけか!」

 強烈な言葉がネット上に書き込まれている。テレビ番組を送り出す側に対する怒り。テレビの言葉は本音を隠した建前だったのか。災害や事故はしょせん他人事だったのか。そんな不信の嵐だ。

 東日本大震災を経て、私たちの生活上の安心感や住民の連帯感が崩れ落ちた。原発事故で政治や企業、専門家などの日本型システムの脆(もろ)さも露呈した。

 そんななかテレビには何ができるのか。殺伐とした光景を変え、かすかな光を当てることができないのか。人間の温かみやつながりを取り戻せないのか? 放送を通じ、絆を取り戻すきっかけを作れないのか? そんなことを真剣に考えているテレビ人は少なくない。だが、そんな矢先に事件は起きた。

 テレビ界を揺るがした東海テレビの「セシウムさん」事件だ。テレビ不信は加速をつけて広がっている。

 事件は、8月4日午前に放送された東海テレビの情報番組「ぴーかんテレビ」の放送中に起きた。リハーサル用の仮テロップが誤って放送されてしまったのだ。仮テロップは、番組の終わりに視聴者プレゼントの当選者を発表するためのリハーサル用。本来は放送されないはずだった。岩手県産米ひとめぼれ10キロを贈る当選者名に「怪しいお米」「汚染されたお米」「セシウムさん」という悪ふざけの言葉が入っていた。放射能の影響で出荷の見通しに気をもむコメ農家の心情を逆撫でするような内容だった。

 経過は単純だった。テロップ制作者が「怪しいお米」「セシウムさん」などと書き込んだ仮テロップを作成。あくまでリハーサル用で、実際の当選者発表時には具体的な氏名が入る予定だった。それでも不謹慎だと感じた他のスタッフがテロップ制作者に注意したものの修正されないまま放送に入った。

 リハーサルはVTRで通販コーナーを放送している間にスタジオで行う。

 いつもなら仮テロップは放送用とは別のテロップラインに並べられるが、その日は放送用ラインに並び、不慣れなタイムキーパーが送出。生放送にのってしまった。当初、放送事故が起きていることに誰も気づかず、テロップは23秒間も流れてしまった。

 放送後、抗議の電話が殺到した。東海テレビは経営幹部ら6人に、外部委員の大学教授1人を加えた検証委員会を設置。委員会は関係者に事情を聴きまとめた検証報告書を作成。検証番組と併せて、8月30日に公表した。

 検証報告書によると問題の仮テロップは「50代の男性テロップ制作者」が作成した。何度問いただしても彼は「ちょっとふざけた気持ち」「頭に浮かんだ言葉を書いた」という回答に終始したという。

●「ふざけた気持ち」の根源はどこから?

 検証報告書などでは、こうした放送がなぜなされたのかという経過について、放送の仕組みやチェック体制、スタッフの動きなどを交えて細かく報告している。

 さらに風評被害をもたらしたとして岩手県側への謝罪を繰り返し、岩手県の観光やコメ農家支援の特別番組を制作する方針も公表した。

 こうすればミスを防げたはずというチェック上の不備をいくつか指摘する一方で、当の「テロップ制作者」については「著しく社会常識に欠けている」という一言だけで片付けている。なぜ「ふざけた気持ち」が生まれたのか。日頃の彼に対する周囲の関わりや職場で意見の違いなどを議論したのかといった「精神」の問題に関しては不明なままだ。検証報告ではあまり重点が置かれていない印象だ。放送の公共的使命について立ち位置の確認はどうだったかなど、関わった人間たちのジャーナリスト意識の検証こそが大事ではないかと思いながら検証番組を見たが、「ジャーナリスト」あるいは「ジャーナリズム」という言葉は一度も出てこなかった。

 彼を含む制作者集団はテレビ画面の向こう側の人たちと、どういう精神や姿勢で向き合うべきだったのか。こうしたジャーナリストの「精神」やその「教育」に関わる検証は相当希薄だ。詳しくは東海テレビHPで報告書を読んでほしい(注1)。07年の関西テレビ「発掘!あるある大事典」捏造事件の調査報告書(注2)と比べ、チェック体制により比重が置かれ、制作者の自覚や人間力、内発的な努力への言及の少なさが際立つ。

 そこが気になるのは、視聴者や取材相手に対して寄り添う精神は、ジャーナリストとして報道機関の根幹の気構えでありながら必ずしも重視されてこなかったという反省があるからだ。

 かつて私が地方のテレビ局で駆け出しの記者だった頃、こんなことがあった。体調を崩して生活保護の申請窓口に行ったのに申請用紙を渡されなかった母子家庭の母親が餓死するという事件があった。

 それをきっかけにニュース番組で生活保護に関して体験談を募集したら、「私も同じような目にあった」など報道部に連日かかってくる電話は大半が生活保護に関するものになった。多くは涙ながらの訴えで受話器を握りしめることが1時間、2時間を超えることもよくあった。

 最初はこんな実態があるのは許せないと報道部の記者が総出で電話受けをしていたが、次第に熱心にメモをとるのは私だけになってしまった。同様の話が多かったのと他の仕事に支障が出たからだ。場所や状況が微妙に違っても内容は似たりよったり。それでは新たなニュースにならない。それだけ生活保護における申請拒否という実態が深刻だったわけだが、記者の多くは飽きて離れてしまった。

 そんななか記者の数が少ない土曜日に電話がかかってきた。生活苦にもかかわらず長距離電話をかけてきた女性は涙声だ。長時間、話を聞く私に、20歳年上のデスクが大声を投げつけた。

 「おい、いい加減そんな電話、さっさと切れよ」

 さらに数十分、相手の話を聞いてから受話器を置いた私は憤然とデスクにつかみかかった。

 「おい、そんな電話とは何だ。そんな電話とは。取り消せ!」

●寄り添う姿勢は画面の中だけ?

 体験談をお寄せくださいと番組で告知したのはこちら側だ。向こうは自分のつらい境遇を知らせるためにわざわざ電話をかけている。それを「同じ話」と感じるのは、新しい切り口でないとニュースで取り上げにくいという、テレビ局側の勝手な都合だ。

 まさに報道のご都合主義だった。「共感します」「寄り添います」と口にしながら、用が済むと見向きもしない。デスクを睨(にら)みつけながら、仕事が持つ欺瞞(ぎまん)性を自覚した。

 やはり地方にいた頃、断崖を掘り抜いた国道トンネルが崩落して、中を走っていた路線バスなどの車両が乗客ごと押しつぶされる事故があった。断崖がさらに崩れる危険もあり、救出作業は難航。上部の巨大岩盤を爆破してから警察や消防が入った。刻々と状況が変わる大事故でもあり、全国ネットの緊急特番が組まれ生放送した。

 記者もアナウンサーもカメラスタッフも現地やスタジオから不眠不休で伝え続けた。そして、最後に巻き込まれた20人全員が遺体で見つかったという情報が入り、数日間の特番は終わった。地元キャスターの親しみやすさもあって特番の視聴率はダントツだった。終了後、報道担当の上役が大量の缶ビールを抱えて現れた。フロアにいた全員に配った。

 「よくやった。おかげで視聴率は圧勝だ。おめでとう! 乾杯だ!」

 テレビモニターには遺体搬送の映像が続々と流れていた。犠牲者がいる大事故。なぜ「おめでとう」なのか。なぜ「乾杯」なのか。違和感と罪悪感でいっぱいだった。

 取材を受けた犠牲者遺族らがこの場面を見たら、とても許さなかったろう。放送では相手に寄り添うふりをしつつ、本音の部分で内向きの論理で動く。そんな二面性を心に刻んだ。

 「セシウムさん」のニュースを知った時、私が真っ先に思い出したのがこの光景だった。画面の向こう側の悲劇。本音でどこまで「わがこと」と受け止めているのか。根っこは同じだ。

 私たちはニュースや情報番組で、苦しみの淵にいる人たちの境遇を頻繁に伝えている。最近なら東日本大震災や原発事故の被災者たちだ。現場でリポートする記者たちは、声をなくすほど圧倒的な災害の惨状に立ちすくみ、何を伝えるべきか、被災した人たちにどう声をかけるべきなのか、悩みながら取材している。できるだけ寄り添う形の報道ができないか突きつめて考える記者も多い。

 しかし「セシウムさん」事件は、ニュースを伝える側の私たちが懸命に示そうとしている共感や同情に対しても、人々が強い疑念を抱く結果をもたらした。うわべだけでないのか。しょせん「飯のタネ」と考える二面性がないのか、と。

●プロの精神で欺瞞性を克服

 そもそもジャーナリズムの仕事ではテレビに限らず、他人の不幸の現場を撮影し、話を聞き、伝えることが多い。

 だからこそ事実とどう向き合うのかが問われる。他人事とせず、わがことと考えて取材し、世間から忘れられないように報道を続ける責務がある。そうした意識は、現場の記者ならば被害者らと向き合ううちに考えさせられる機会も少なくない。しかし、今回の「テロップ制作者」のように、広い意味でのジャーナリズムに関与する職種の人にまで、どのようにして意識を共有してもらうか、精神の深度をどう確認するかとなると難しい。

 「テロップ制作者」は、現場との距離が離れているため、テレビの欺瞞性・二面性の本音が現れやすかったのだ。それが今回の事件の本質だろう。

 ジャーナリストは、個々の事実を前にして、わが身に置き換え、考えていく職業だ。もしも「他人事」にしてしまうなら、もうジャーナリストではない。だから共感力をつけるのは職業倫理でありプロの職業精神である。

 「他人事」でなく「共感」。国民の知る権利を基本にした放送の公共性を自覚することから始まる。

 理想を言うなら放送に関わるすべての職種の人間がジャーナリストたれ、という点に尽きる。こうした意識を徹底させるための仕組みを作っていく必要がある。検証報告書を読む限り、この問題がどこまで意識されているかについてかなり疑問に感じる。

 ちなみに放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は9月に出した「提言」で、制作現場での議論の大切さを訴えた(注3)。「話し合う」ことを通じ、互いの精神を鍛え合う以外に根本的な策はないという主張だ。ことの神髄を見据えた卓見だと思う。(「ジャーナリズム」11年11月号掲載)

(注1)「ぴーかんテレビ」検証報告書(11年8月30日、東海テレビ放送「ぴーかんテレビ」検証委員会) http://tokai-tv.com/press/pdf/2011/110830.pdf

(注2)調査報告書(07年3月23日、「発掘!あるある大事典」調査委員会) http://www.ktv.jp/info/grow/pdf/070323/chousahoukokusyo.pdf

(注3) 東海テレビ放送『ぴーかんテレビ』問題に関する提言(11年9月22日、BPO放送倫理検証委員会) http://www.bpo.gr.jp/kensyo/decision/011-020/20110922_tokai.pdf

   ◇

水島宏明(みずしま・ひろあき)

テレビ・ジャーナリスト、ドキュメンタリー演出家。1957年、北海道生まれ。主な番組に「喰いものにされたキヨシさん」「カナリアの子供たち」「奇跡のきょうしつ」。著書に『子どもの貧困白書』(共著)など。 

2014年1月13日月曜日

「成人の日」未明に見たドキュメンタリー

 昨夜放送された日本テレビの「NNNドキュメント」はすごい内容だった。

 亡くなった映画監督・大島渚が制作したドキュメンタリーをそのまま放送し、その後で、是枝裕和や田原総一郎らが作品の今日的な意義について話していた。

 戦争中に「日本兵」として命をかけて、両目や手を失って障害者になった在日韓国人の兵士たちが、「日本人なみの軍人恩給」を、と政府に求めて、陳情に歩く。元の兵隊同士が集まると、こらえきれない怒りが爆発し、途中で切断されたままの手をむき出し、ふだんはかけているサングラスを外して眼球のない両目を見せる。

 素材もむき出し。音楽もむき出し。ナレーションもむき出し。

 怒りがほとばしっている。

 是枝が「かつては20%の声であってもテレビがそれを伝え、多様性があった。今はそれはない」と言う。

 その通りだ。大島作品をそのまま放送し、是枝らの見方を挿入することで、今の時代の政治やテレビ状況を照射する番組になっていた。

 そのことに気がつく人は気づく。
 
 制作者が「覚悟」を持って作っている、というその迫力が画面から出ていた。

 制作スタッフの勇気に拍手を送りたい。

「反骨のドキュメンタリスト  大島渚 『忘れられた皇軍』という衝撃」   55分枠

放送 : 1月12日(日)
  24:50~
ナレーター : 永田亮子
制作 : 日本テレビ
再放送 : 1月19日(日)11:00~
    BS日テレ
  1月19日(日)18:00~ 
CS「日テレNEWS24」 
2013年1月、大島渚監督が逝った。「大島渚は不器用で、反国家むきだしにして体を張って 闘っていた」そんな大島の魂がこめられたドキュメンタリーが、日本テレビに遺されている。『忘れられた皇軍』(1963年放送) 日本軍属として戦傷を負い、戦後、韓国籍となった旧日本軍の兵士たち。片腕と両眼を失った白衣の傷痍軍人が何の補償も受けられぬまま、街頭で募金を集め る…大島は一体何を訴えようとしたのか?当時の制作スタッフや妻・小山明子の証言からひもとき、テレビと映画2つのフィールドで活躍する是枝裕和監督や同 時代を生きたジャーナリスト田原総一朗と共に考える。50年を経た今、大島の映像は少しも古びることなく、見る者を激しく揺さぶる。テレビを考え抜いた映 画監督、大島の遺言とは?


2014年1月3日金曜日

1月3日の朝日新聞の1面トップは・・・

  
 元旦の新聞を見れば、その新聞の「一年」が分かるとおととい書いたが、2日の新聞休刊日をはさんだ1月2日の紙面もその新聞のありようをさぐる上で重要だ。「正月モード」の色が濃い、元日と違って、「ふだんの日モード」に近いなかで「その新聞がこれから力を入れるテーマ」が反映されるからだ。

 朝日新聞の一面トップは元日に続き、「教育2014 世界は 日本は」の第2回目で
『格差を超える』。

 大見出しは「暮しのせいにしない」とあり、「学校を拠点に立ち向かう」という中見出しも。
 大阪府茨木市立郡山小学校で貧困家庭の子どもが多いなかで、校長以下、教職員が総掛かりで子どもの学習指導を続けた結果、成績が伸びたというエピソードを伝えている。

 単に勉強を教える体制を充実させただけでなく、「朝ご飯を食べたか」などの生活もチェックするようにした。

 校長が「一人の子どもも切り捨てたくないと、あの手この手で励ます続けた結果」だという。
 2面では、大見出しが「断つ 貧困の連鎖」とあり、「1ドル投資 7ドルリターン」というアメリカでの貧困家庭向けの幼稚園の充実やドイツでの移民家庭の子ども向けの幼稚園教育が紹介される。合わせて日本の就学前教育機関への公的支出はOECDshokoku de
最低レベルだという情報も伝える。

 イギリスでも民間の力を使った「公設民営校」が貧困地区の学校再生に大きく貢献した取り組みが紹介される。

 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140103-00000001-asahik-soci


 良い話だし、良いテーマだ。私自身も「貧困の連鎖を断つ」「子どもの貧困を解決しよう」とする取り組みを取材して報道してきた人間だ。
 子どもの貧困を解決して社会を夢のある「より良いもの」にしていこうというのテーマ設定は好感が持てる。

 ただ、記事そのものが迫力がない。人間の体温が伝わってこないのだ。
「紹介」に終わってしまって、感情や思いが伝わって来ないのだ。

 おそらく、学校を運営する学校長や自治体側の目線で記事を書いているからだろう。

 実際にそこに通う子どもたちや保護者たち、あるいは一線の教師たちの姿が見えないせいだろう。
 そういう意味では貧困を伝えるジャーナリズムとは、どのように伝えるべきかという伝え手の「腕」にもかかわってくる。

 そういう意味では、ちょっと残念な記事だ。記事を書く人、記事をチェックする人はもう少し頑張ってほしい。






  

2014年1月2日木曜日

食品に混入された有機リン農薬「マラチオン」の”毒性”について自ら調べないマスコミ(Yahoo ニュース個人 2014年1月2日 19時42分)






クリームコロッケなどの冷凍食品に農薬が混入されていた事件。
警察による捜査で工場での製造過程で農薬が混入する可能性は低くなり、工場内に出入りできる何者かが混入させた疑いが強まっている。
犯人は誰なのか。目的は何だったのか。どうやって混入させたのか。
それらは今後の捜査の進展を待つより他はない。
それよりも、ここまでのテレビや新聞の一連の報道を見てきて気になったことがある。
混入された有機リン農薬「マラチオン」の毒性に関する報道があまり詳しくないのだ。
流通している食品がどこまで危険なものなのかは、読者・視聴者が真っ先に知りたい情報のはずなのに、「会社側の発表」を垂れ流したような報道が目立つ。
私も以前、農薬の毒性に関するドキュメンタリーを取材したことがあるが、「マラチオン」などの有機リン農薬は、毒ガスのサリンとのいわば親戚のようなもので、生物の神経細胞に大きな影響を与える。
もちろん「急性」の毒性もあるが、「慢性」の毒性も見逃せない。
私が取材した有機リン農薬による慢性中毒の患者は「化学物質過敏症」を発症して、日常生活をとても制約された生活を送っていた。
そうした問題も見通して、この事件の報道が行われているとはとても言えない。
報道を振り返ってみよう。

マルハニチロ、回収は630万パック 冷凍食品から農薬


2013年12月30日00時11分  マルハニチロホールディングス(本社・東京)は29日、子会社の「アクリフーズ」の群馬工場(群馬県大泉町)で作られた冷凍食品から農薬「マラチオン」 が検出されたと発表した。マルハは同工場で製造した全商品を自主回収し、農薬が混入した原因を調べる。報告を受けた群馬県は30日、状況を確認するため食 品衛生法に基づいて同工場を立ち入り検査する。  マルハによると、11月半ばから今月末にかけて、3品目計20パックについて「異臭がする」などの苦情が特定の地域ではなく、各地から寄せられた。 「ミックスピザ3枚入り」などのピザ11パック、「鶏マヨ!」などのフライ8パック、「とろーりコーンクリームコロッケ」1パック。ミックスピザを食べた 子ども1人が、口に入れた直後にはき出した。健康被害の情報は寄せられていないという。  同社は「工場内の薬剤や原材料を調べたが農薬は検出されなかった。通常の製造過程とは別に、外部からの混入も含めて調べる」と説明。群馬県警に相談して いるという。  苦情が寄せられた3品目の11パックの商品を外部の調査機関に依頼して調べたところ、各品目の計4パックの商品から農薬用の有機リン系殺虫剤「マラチオ ン」が検出された。低毒性で急性の毒性や発がん性などはないという。調べた袋には外部から針などで刺した跡は確認されなかった。  同社は今月27日、同工場でつくる市販用42商品と総菜や学校給食などで利用される業務用46商品の製造を中止。回収の対象になるのは、現在流通してい る在庫品約630万パックになるという。同工場は市販用、業務用を年間計約8千万パック生産している。  同工場で製造された商品は返金に応じる。問い合わせはアクリフーズ(0120・690149)へ。
出典:朝日新聞デジタル

朝日新聞のこの記事など、「低毒性で急性の毒性や発がん性などはないという」と記しているが、朝日新聞の記者が専門家にあたって検証した感じではない書きっぷりだ。
混入されたマラチオンは本当に毒性が低いのか、読者がもっとも気にする点について、あまりに粗雑な書き方ではないか。

マルハニチロの冷凍食品から農薬 630万袋回収、外部混入の可能性も


2013.12.29 18 (中略) 同社によると、11月13日にミックスピザを食べた客から「石油のようなにおいがする」と連絡があった。それ以降今月29日までに、子供が悪臭で吐き出すなど約20件の苦情があった。  同社は外部機関に検査を依頼。「マラチオン」と呼ばれる有機リン系の殺虫剤が、コーンクリームコロッケに基準値を上回るレベルで含まれていることが分かった。子供(体重20キロ)が1度に60個のコロッケを食べないと毒性が発症しないレベルという。
出典:MSN産経ニュース
この産経新聞の記事も「(体重20キロ)が1度に60個のコロッケを食べないと毒性が発症しないレベルという」として、会社側の発表をそのまま載せている。

マルハニチロの子会社の工場で製造された冷凍食品に混入していた農 薬「マラチオン」は、有機リン系の殺虫剤の一種だった。  「マラソン」と呼ばれることもあり、見た目は臭みのある黄色っぽい液体。誤って飲み込んだ場合、すぐに尿などから排出されるが、頭痛や下痢、吐き気など を引き起こすことがある。発がん性は確認されていないという。  農林水産消費安全技術センターによると、国内では昭和28年以降、ダニやアブラムシなどの害虫を駆除するための農薬として使われ始めた。海外から収穫後 の穀物を船で輸送する際などに使われるケースが多く、輸入することが多いトウモロコシや小麦などから少量が検出される傾向がある。  水に溶けにくく、熱で分解しやすい。人が1日に摂取してもよいとされる量は体重1キログラム当たり0・02ミリグラム。
出典:ヤフーニュース(産経新聞)
同じ産経新聞の記事でこんな解説もある。

今回は子供が吐き気を催した例が報告されたが、マラチオンという農 薬はどれだけの毒性があるのか。  立川涼・愛媛大名誉教授(環境化学)は「比較的安全な農薬といわれるが、神経毒があるので、大量に摂取したら身体のしびれやまひが出てくる。最悪の場 合、死に至る可能性もあるが、今回の農薬の濃度では、大量に摂取する可能性は低い」と説明する。  マラチオンは低毒性の有機リン系の殺虫剤で、イネや野菜、花など害虫駆除に幅広く使用されている。見た目は黄色っぽい色をしており、水にほとんど溶けな い。酸やアルカリで加水分解されるほか、熱を加えることでも分解される。マルハニチロは毒性の発生レベルを「子供(体重20キロ)でもコロッケ(22グラ ム)を一度に60個食べないと発症しない」としている。  今回は基準値に比べて150万倍という高濃度の数値が検出されたが、矢野俊博・石川県立大教授(食品管理学)は「日本の残留農薬基準はかなり厳しく設定 されており、150万倍といっても命にかかわる量ではない。しかし、仮に食べて気分が悪くなったら、病院で治療を受けた方がよい」と勧めている。
出典:MSN 産経ニュース
マルハニチロの説明を受けて、専門家や専門機関にも問い合わせてみたものの「命にかかわる量ではない」ということが強調されている。
ところがマルハニチロの説明が「過小評価」だと分かる。

農薬混入 回収94品目640万袋に マルハニチロ 毒性を過小評価


産経新聞 1月1日(水)4時0分配信  マルハニチロホールディングスの子会社「アクリフーズ」が製造した冷凍食品から農薬「マラチオン」が検出された問題で、最も高い濃度の農薬が検出された コロッケは、子供が8分の1個食べると吐き気などの健康被害を起こす可能性があることが31日、分かった。アクリ社は「子供が一度に60個のコロッケを食 べないと毒性が発症しない」と説明していたが、アクリ社とマルハニチロHDが同日未明に記者会見し、毒性を過小評価していたことを明らかにした。                    ◇  また、回収対象となる商品が市販用で新たに4品目あり、業務用と合わせて計94品目、少なくとも640万袋になると訂正した。  検出されたマラチオンの最大値はコーンクリームコロッケの1万5千ppmで、国が定めた残留基準値(0・01ppm)の150万倍。会見で、両社は当 初、健康被害に関する基準として「動物実験でおよそ半数が死亡する値」を基に算定していたと説明。厚生労働省の指摘を受け「健康に影響がないと推定される 1日あたりの限度量」を基準にすると、体重20キロの子供が約2・7グラム(コロッケ8分の1個)を食べれば、吐き気や腹痛などの症状が出る可能性があっ たという。公表すべき健康被害の基準について、両社は厚労省や保健所に事前に確認しておらず、「知識を持ち合わせていなかった」などと釈明した。  消費者から「異臭がする」と苦情があった20件(13都府県)の各商品は計3つの製造ラインで作られたことも判明した。このうちマラチオンが検出された 7商品9件は10月4日~11月5日のそれぞれ別の日に製造されていた。
出典:ヤフーニュース(産経新聞)
日本経済新聞も以下のように書く。

コロッケ少量で健康被害も マルハ側は過小評価 厚労省が注意喚起


2013/12/31 1 冷凍食品から農薬が検出された問題で、記者会見し謝罪するマルハニチロホールディングスの久代敏男社長(31日未明、東京都江東区)=共同 画像の拡大 冷凍食品から農薬が検出された問題で、記者会見し謝罪するマルハニチロホールディングスの久代敏男社長(31日未明、東京都江東区)=共同  マルハニチロホールディングス(HD)のグループ会社アクリフーズが群馬工場(群馬県大泉町)で製造した冷凍食品から農薬「マラチオン」が検出された問 題で、両社は31日未明、毒性を誤って過小評価していたと発表した。厚生労働省から不適切と指導を受け、中毒症状が出る摂取量を訂正。検出濃度が最も高 かったコロッケの場合、子供が1個の8分の1を食べると吐き気や腹痛を起こす恐れがあるとした。  マルハ側は農薬の検出を発表した12月29日の記者会見で、農薬の濃度が1万5千PPMと最も高かった「とろ~りコーンクリームコロッケ」について「体 重20キログラムの子供が60個食べないと(中毒症状は)発症しない」と説明。「実験で投与した動物の半数が死ぬ量」を基準とし、体重1キロ当たり1グラ ムで計算していた。  しかし、厚労省は30日夜、マルハ側を呼び、この基準を使うのは不適切だと指導。健康に悪影響を及ぼさないと推定される限度量(急性参照用量)を基準と するよう求めた。体重1キロ当たり2ミリグラムで計算される。  新たな基準では、体重60キログラムの大人がこのコロッケを3分の1個食べると限度量を超え、吐き気や腹痛などを起こす恐れがある。また、ピザでは最高 濃度の2200PPMの場合、大人が半分を食べると同様の症状が出る可能性がある。  同省の指導を受けてマルハ側は評価をやり直し、31日未明に記者会見。最も濃度が高いコロッケは子供が8分の1個を食べると症状が出る可能性があると訂 正した。マルハニチロHDの久代敏男社長は「毒性に対する判断基準が甘かった。消費者の皆様に大きな誤解を与えたことを深くおわびする」と陳謝した。  同社の佐藤信行品質保証部長は「急性参照用量の知識がなかった。事前に厚労省や県にも相談していない。完全に失念していた」と説明した。  厚労省は各自治体に対し、マルハ側が自主回収している一般消費者向け49商品と、業務用45商品のリストを提供。自主回収が迅速に進むよう小売店などに 指導するよう30日付で通知した。リストは同省のホームページにも掲載し、対象商品は食べずに返品するよう呼びかけている。
出典:日本経済新聞 WeB刊
この記事にあるようにマルハニチロの訂正会見を受けて「最も濃度が高いコロッケは子供が8分の1個を食べると症状が出る可能性がある」というのが1月2日現在のマスコミ各社による「マラチオンの毒性」に関する説明だ。
しかし、それだけなのだろうか?
以前、農薬の毒性について取材した経験でいうと、あくまでそれは「急性中毒」に関するものでしかない。
「化学物質過敏症」を含む「慢性中毒」に関する説明ではない。
私の取材した経験では、母親の体内にいる時に空中散布された有機リン殺虫剤で、重症の化学物質過敏症になった小学生が、
学校の近隣の梅林で撒かれた有機リン殺虫剤が風に乗ってきたために目の前で倒れてしまったことがあった。
呼吸も困難だったが、有機リン中毒で点滴を受けて回復した。
ただし、この子どもが化学物質過敏症だったために、ごく微量の有機リン農薬にも反応したのだった。
その他のほとんどの子どもは近隣で殺虫剤が撒かれたことさえ、気がつかなかった。
それほど、有機リン殺虫剤による症例は個人差がある。
しかし、現実にひどく反応する子どもたちは存在するのだ。
実は、農薬の毒性に関しては、専門家といわれる大学教授や医師などの間でも意見は分かれる。
特に慢性毒性については学者の間でもどちらかといえば「過小」に評価する専門家と「過大」に評価する専門家がいる。
前者は農薬メーカー寄りの専門家たちに多い。
後者は化学物質過敏症の研究をしている医師などに多い。
前者について言えば、放射能による健康影響に関して少なく評価しがちな人たちが原発メーカー寄りなのと同じような構図がある。
「原子力ムラ」と同じように、「農薬ムラ」もこの国には存在する。
このことを踏まえて、専門家だからとコメントを取って良し、とするだけなら、取材として不十分だ。
有機リン農薬「マラチオン」による子どもの神経に対する毒性については、北里大学の石川哲名誉教授による研究が有名だ。
石川名誉教授は「マラチオン」が空中散布されていた長野県佐久市の子どもたちの症例などを研究し、有機リン殺虫剤が子どもの神経に症状を引き起こすことを証明し、遠山椿吉記念 第3回 食と環境の科学賞 功労賞 を受けている。

有機リン農薬は、特に赤ん坊や幼い子どもの神経の発達に悪影響を与えることが分かっている。


当 時、佐久市のヘリの空中散布が行われた地区の小児達に神経系に異常を持つ児童が約75名以上発生した。これが、有機リン剤の人体毒性研究の発端となった。 当時は、微量摂取による慢性中毒の知識、診断基準は全く無く全力を挙げて中毒患者の診断、治療、予防、疫学研究を行った。最終的に本症の原因はマラチオン 空中散布接触による自律神経、視覚中枢路障害であった。Malathion ヘリ散布の中止を要請し、脱リン剤PAM, Atoropin投与、水、食の改善によりその後数年で患者発生は無くなった。この原著はNeurotoxicity of the Visual System また、後述する化学物質過敏症の約30%以上は有機リン剤(主に殺虫剤)による慢性中毒である事も明らかになってきた。
出典:第3回食と環境の科学賞 功労賞受賞者
マスコミは犯人を追及することをも大事だが、被害の広がりが本当にないのかを検証する責任もある。
3・11以降の原発報道に関してもマスコミの課題になった、政府や会社側の発表を鵜呑みにせず、自らの力で調査する「調査報道」がこうした事件の報道でも求められている。

『紅白歌合戦』での『あまちゃん』再来 足立ユイ役の橋本愛さんも「奇跡」とコメント


『紅白歌合戦』での『あまちゃん』の復活劇。

ドラマの本編では東日本大震災では実現しなかったことがいくつもあった。

天野アキとGMT5によるステージでの共演も大震災で実現しなかった。

足立ユイの「東京に出てアイドルになる」という夢も大震災で実現しないままになった。

ドラマの本編は、それを「乗り越えて」いく若者たちのジャンプする姿で終わるので、もちろん想像できるのだけれども、どこかでステージで歌っているユイちゃんの姿を想像したりもしていた。

で、『紅白』での『あまちゃん』コーナーに戻ると、天野アキと足立ユイの共演が実現されていて、まさにドラマの中のユイちゃんの「夢」が現実のものになっていた。

視聴者にとってはうれしい時間が流れた。

詳しくはヤフーニュース(個人)に書いたので、こちらを見てください。
ヤフーニュース(個人)


で、視聴者だけかと思っていたら、足立ユイを演じて『紅白』で歌った橋本愛さんのブログを見つけた。

演じていた人。

制作していた人。

地元の人。

テレビの前の人。

それらが同時に「奇跡」を感じていたのだとしたら、それはとても幸福な番組だということが言えると思う。


橋本愛のブログ

「どれだけ奇跡を目の当たりにさせてくれるの!と
この作品に寄せられた愛の大きさを
多分初めて体感できた一夜でした。
自分がその一部であることを強く、嬉しく思いました。」(橋本愛さんのブログから)


夢が少なくなったテレビで、滅多にない出来事だったことだけは間違いない。

(yahoo ニュース個人より転載)【新聞のミカタ】元日の「一面トップ」を検証 そこから見える新聞各紙の2014年の”ヤル気”と”覚悟”



私は以前、朝のテレビ情報番組で「新聞の解説」の仕事をやっていた。 
毎日毎日、新聞各紙を読み比べてみて、スタジオで気になった記事を解説する仕事だった。
『新聞のミカタ』というコーナーだった。 
数年間、これをやってみて分かったことがある。
新聞社では、日々の新聞の”一面の右上の記事”、つまり「一面トップ」の記事へのこだわりがとても強いということだ。
さらに毎年、正月、特に元日の一面トップにどんな記事を載せるかで、その新聞社がその時代その時代で「何が問題か」を各新聞が認識しているか反映されるということも分かった。
つまり、それぞれの新聞社が「今の時代でもっとも重要なテーマ」と認識する問題が「元日の一面トップ」に載るのである。
元日の一面トップの記事に、その日から始まるシリーズ連載の第一弾が載ることも多い。その時代や何が問題だと考えているかが一面トップの記事から伝わってくる。元日の記事を見れば、新聞社のヤル気と覚悟が分かってくるのだ。
では、2014年の元日、1月1日水曜日に新聞各紙は何を一面トップに持ってきたのかを振り返ってみたい。

読売新聞は・・・

読売新聞は、一面トップの見出しは『中国軍 有事即応型に』『陸海空を統合運用』『機構再編案 7軍区を5戦区に』とある。
中国軍が、国内に設置している地域防衛区分である7大軍区を、有事 即応可能な「5大戦区」に改編することなどを柱とした機構改革案を検討していることがわかった。  5大戦区には、それぞれ陸軍、海軍、空軍、第二砲兵(戦略ミサイル部隊)の4軍種からなる「合同作戦司令部」を新たに設ける。複数の中国軍幹部などが明 らかにした。  これまでの陸軍主体の防衛型の軍から転換し、4軍の機動的な統合運用を実現することで、沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海や南シナ海での制空権・制海権の 確保に向けて攻撃力の強化を目指すものだ。新型装備の増強に加え、運用の近代化が実現すれば、日本や米国の脅威となるのは必至だ。  軍幹部によると、5年以内に、7大軍区のうち、沿海の済南、南京、広州の3軍区を3戦区に改編して、各戦区に「合同作戦司令部」を設置し、それぞれ黄 海、東シナ海、南シナ海を管轄する。東シナ海での防空識別圏設定と連動した動きで、「『海洋強国化』を進める上で避けては通れない日米同盟への対抗を視野 に入れた先行措置だ」という。その後、内陸の4軍区を二つの戦区に統廃合する見通しだ。現在も演習などの際には軍事作戦を主管する戦区という呼称を一時的 に使っているが、戦区に改編することで有事即応態勢を整えることになる。
出典:ヨミウリ・オンライン
この記事の重点は「沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海や南シナ海での制空権・制海権の確保に向けて攻撃力の強化を目指すものだ。新型装備の増強に加え、運用の近代化が実現すれば、日本や米国の脅威となるのは必至だ」という部分にある。
日本の自衛隊の仮想敵である中国軍について、中国軍の複数の幹部を取材して脅威の実態を探った記事だ。
文章として書かれてはいないが、日本の防衛体制は現状で大丈夫なのか?と読者に思わせるに十分な内容だ。
読売新聞にとって、日本の国防こそが重要課題であり、特に中国軍の動きには目を光らせていくぞという覚悟が読み取れる。

毎日新聞は・・・

さて、毎日新聞の一面トップの見出しは、『中国、防空圏3年前提示』『日本コメント拒否』『非公式会合 発表と同範囲』
中国人民解放軍の幹部が、2010年5月に北京で開かれた日本政府 関係者が出席した非公式会合で、中国側がすでに設定していた当時非公表だった防空識別圏の存在を説明していたことが31日、明らかになった。毎日新聞が入 手した会合の「機密扱」の発言録によると、防空圏の範囲は、昨年11月に発表した内容と同様に尖閣諸島(沖縄県)を含んでおり、中国側が東シナ海の海洋権 益の確保や「領空拡大」に向け、3年以上前から防空圏の公表を見据えた作業を進めていたことが改めて裏付けられた。  非公式会合は10年5月14、15の両日、北京市内の中国国際戦略研究基金会で行われた。発言録によると、中国海軍のシンクタンク・海軍軍事学術研究所 に所属する准将(当時)が、中国側の防空圏の存在を明らかにしたうえで、その範囲について「中国が主張するEEZ(排他的経済水域)と大陸棚の端だ」と具 体的に説明し、尖閣上空も含むとの認識を示した。  また、この准将は「日中の防空識別区(圏)が重なり合うのは約100カイリ(約185キロ)くらいあるだろうか」と述べるとともに、航空自衛隊と中国空 軍の航空機による不測の事態に備えたルール作りを提案した。  人民解放軍の最高学術機関である軍事科学院所属の別の准将(当時)も「中国と日本で重なる東海(東シナ海)の防空識別区(圏)をどう解決するかだ」と述 べたうえで、同様の提案をしていた。  中国の防空圏に尖閣諸島が含まれていれば、「尖閣に領土問題は存在しない」という日本政府の公式的な立場を崩しかねない。このため、日本側出席者の防衛 省職員が「中国は国際的に(防空圏を)公表していないので、どこが重複しているのかわからない。コメントできない」と突っぱねた。
出典:ヤフー・ニュース(毎日新聞記事引用)
毎 日新聞の記事は、読売新聞と同じように、中国との関係が緊張をはらみ、予期せぬ衝突が起きて戦争突入の可能性もある現状を強く意識している。昨年11月に 一方的に発表した防空識別圏について、中国が3年前に非公式会合で日本側に提示していたという事実を伝える。中国側の「野心」を暴く一方で、日本側もこの 情報を防衛省内や外務省、官邸などに上げてうまく処理できた可能性があったこともうかがわせている。
読売新聞のように中国側だけを取材したものでなく、中国軍、日本の防衛省、自衛隊のやりとりを多角的に取材した深みのある記事だ。
毎日新聞の記事は「隣人 日中韓」という連載を昨年末から始めていて、その第2弾としての立派なスクープといえる。
3面の「隣人 日中韓」の記事には『予期せぬ衝突 回避策急務』『緊張「いつ起きても…」』『交渉 靖国参拝で遠のく』という見出しが並び、自衛隊と中国軍との間で現場レベルの話し合いやホットラインが出来つつあったのに、首相の靖国神社参拝などの「政治」がその動きを止めてしまったことを報じている。
毎日新聞からは、こうした日中韓の3カ国の関係を「複眼的に」見つめていこうとする「覚悟」が伝わってくる。読売が対中国で「単眼的」なのと比べると物事を単純化しないで相手国の立場でも考えようとする姿勢が見える。

産経新聞は・・・

産経新聞の一面トップは、『河野談話 日韓で「合作」』『原案段階から すり合わせ』『関係者証言 要求受け入れ修正』というものだ。
慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の「河野洋平官房長官談話」に ついて、政府は原案の段階から韓国側に提示し、指摘に沿って修正するなど事実上、日韓の合作だったことが31日、分かった。当時の政府は韓国側へは発表直 前に趣旨を通知したと説明していたが、実際は強制性の認定をはじめ細部に至るまで韓国の意向を反映させたものであり、談話の欺瞞(ぎまん)性を露呈した。 ◇  当時の政府関係者らが詳細に証言した。日韓両政府は談話の内容や字句、表現に至るまで発表の直前まで綿密にすり合わせていた。  証言によると、政府は同年7月26日から30日まで、韓国で元慰安婦16人への聞き取り調査を行った後、直ちに談話原案を在日韓国大使館に渡して了解を 求めた。これに対し、韓国側は「一部修正を希望する」と回答し、約10カ所の修正を要求したという。  原案では「慰安婦の募集については、軍の意向を受けた業者がこれに当たった」とある部分について、韓国側は「意向」を強制性が明らかな「指示」とするよ う要求した。日本側が「軍が指示した根拠がない」として強い期待を表す「要望」がぎりぎりだと投げ返すと、韓国側は「強く請い求め、必要とすること」を意 味する「要請」を提案し、最終的にこの表現を採用した。
出典:MSN 産経ニュース
平成5年の「河野洋平官房長官談話」が、原案の段階から韓国側とすり合わせていた「合作」だったとし、当時の政府関係者が証言したという内容の記事だ。2面で「河野談話の欺瞞性はもう隠しようがなくなった」と書く。日本側が自分自身で考えて発表したものでなく、韓国側と妥協点を探っていた産物だったので「欺瞞」だという展開。
産経新聞が2014年も従軍慰安婦問題など「歴史認識」に重点を置いていく、というヤル気と覚悟は伝わってくる。
ただ、外交交渉では、相手先と水面下で妥協点を探るのは通常行われていることなので、それがけしからんとする論調は外交交渉術をあえて知ら ないふりしているようでかなり意図的な印象だ。また、当時の「日本政府の関係者」だけに取材するという取材の薄さも気になる。2014年もこれまで同様に 一点突破の路線で、やっていくということなのだろう。

日本経済新聞は・・・

日本経済新聞の一面トップは『空恐ろしさを豊かさに』という見出し。『常識超え新しい世界へ』という見出しも続く。
元日から始まった「リアルの逆襲」という連載の第1回の記事だ。
 速すぎる科学や技術の進歩に一線を越えたような空恐ろしさを感じることはないだろうか。これまでの常識を覆し、新たな秩序を築く過程では抵抗や反発も避けられない。豊かな未来。それは「リアルの逆襲」を乗り越えた先にある。
出典:日本経済新聞 電子版
一度、絶滅した動物を蘇らせるようなバイオの科学が「空恐ろしい」一方で、ビジネスにもつながる面を強調する。
それはネットを使って、人間を格付けする技術も同様だ。ネット上の「いいね!」が多い人間ほど、政治でもビジネスでも高く評価される時代になりつつある。
iPS細胞ひとつ考えても、そうした技術は確かに今後のビジネスのカギを握る一方、一歩間違えると「人間としてどこまで許されるのか」とい う倫理的な問題を突きつける。そうした時代にいるということを元日に伝える、というスケールの大きい世界観が日経新聞らしい。この連載が今後どこまで広 がっていくのが興味深いが、経済専門新聞としてはこうした方向性もありだろう。

朝日新聞は・・・

朝日新聞の2014年の最初の新聞の一面トップは『めざす 世界の1%』『済州島に英語都市』『慶大中退 アブダビに』
この日から始まった「教育2014 世界は 日本は」という連載の第1回で「グローバルって何」というタイトルがついている。
少子高齢化が進む日本。海外に経済成長の活路を見いだそうと、政府 は英語教育の強化を打ち出す。ただ、グローバル人材の育成という目的地は、語学の壁を越えたその先にある。日本の教育は、世界をとらえられるか。 ''' 特集「教育2014 世界は 日本は」  「世界1%のグローバルリーダーを育てるアジア最高の英語教育都市」'''  そんなキャッチコピーの新都市の建設が、韓国・済州島で進んでいる。379ヘクタールの広大な敷地に、欧米トップクラスの名門私立校の分校と大学を誘 致。病院やコンビニでも、フィリピン人従業員を雇うなど英語を常用化する計画だ。  2011年9月、英国の私立女子校「NLCS(ノース・ロンドン・カレッジエイト・スクール)」は韓国政府の要請を受け、初の海外分校「NLCSチェ ジュ」(定員1508人)を開校。幼稚園から高校まで14年間の共学の一貫校だ。  皮膚の構造を描く中学3年の生物の授業。女子生徒19人が筆や絵の具を一斉に手に取り、英語で部位の名称や説明文を加えていく。「どんな色がいいか な?」「神経をまだ描いていないよ」……。生徒の会話はもちろん英語だ。  1997年の通貨危機後、韓国政府は外貨を稼ぐ企業や人材を育てるため、英語教育にかじを切った。小中高生の早期留学も急増。この学校の寮費を含む学費 は平均年約4500万ウォン(約450万円)と高額だが、海外留学よりは安い。都市を運営する公営企業は、中国や日本からも学生を呼び込み、21年には居 住人口を2万3千人に増やそうとしている。      ◇  オーストラリアでは、87年から小中高での外国語教育が政策として始まった。白人を優遇する白豪主義を廃止し、多文化主義に転換した象徴として導入し た。  その後、94年にアジア語重視が打ち出され、日中韓インドネシアの4カ国語について「小3から高1までの6割がいずれかを学ぶ」との目標が設定された。 いま、豪州で最も盛んに教えられている外国語は日本語だ。全国に約30万人いる日本語学習者の9割以上が初中等教育で学んでいる。  「アジア語必修化」を起案したラッド前首相(当時はクインズランド州政府事務次官)は「将来的な貿易の重要性から選んだ。国の将来がかかった優先事項で あり、その重要性は今も変わらない」と話す。 ■慶大中退、アブダビに  アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビに2010年に開校した米ニューヨーク大アブダビ校。102カ国から集まった約620人の学生が学ぶ。  橋本晋太郎さん(21)は慶応大法学部を1年半で中退し、飛び込んだ。「数百人もの大教室で講義を聴き続ける毎日」に危機感を覚えたからだ。
出典:朝日新聞 デジタル
安 倍政権が進めようとしている教育改革を前提として、どこが日本の教育の遅れている点がを先進地域の現状を紹介して行こうという試みだ。グローバルな人材を 育成するにはどうすればよいのか、と課題を探る連載で、韓国の済州島やアラブ首長国連邦のアブダビ、さらには長野県の軽井沢などに出来つつあある「グロー バル人材育成学校」を取材する。
こういう連載そのものは否定しないが、しかし、これがはたして元日の一面トップの内容なのか?
朝日新聞として、「教育のグローバル化」が最重要課題だと認識しているのだろうか。
日本経済の将来に結びつくテーマであるので経済専門紙なら理解できるが、一般紙としてはどうなのか?
他にやるべきテーマがあるのではないか?
日本のジャーナリズム界で朝日新聞がこれまで果たしてきた役割を考える時、物足りなさを感じざるえない。

東京新聞は・・・

こうしたなかで元日の一面トップでひとり気を吐いた印象だったのが東京新聞だった。
『東電 海外に200億円蓄財』『公的支援1兆円 裏で税逃れ』『免税国オランダ活用』という見出しの記事だ。
東京電力が海外の発電事業に投資して得た利益を、免税制度のあるオランダに蓄積し、日本で納税していないままとなっていることが本紙の調べでわかった。投 資利益の累積は少なくとも二億ドル(約二百十億円)。東電は、福島第一原発の事故後の経営危機で国から一兆円の支援を受け、実質国有化されながら、震災後 も事実上の課税回避を続けていたことになる。(桐山純平)   東電や有価証券報告書などによると、東電は一九九九年、子会社「トウキョウ・エレクトリック・パワー・カンパニー・インターナショナル(テプコインター ナショナル)」をオランダ・アムステルダムに設立。この子会社を通じ、アラブ首長国連邦やオーストラリアなどの発電事業に投資、参画していた。  子会社は、こうした発電事業の利益を配当として得ていたが、日本には送らず、オランダに蓄積していた。  オランダの税制について米国議会の報告書は、「タックスヘイブン(租税回避地)の特徴のある国」と指摘。専門家も「多くの企業が租税回避のために利用し ている」とする。  東電のケースも、オランダの子会社が得た配当利益は非課税。仮に、東電がオランダから日本に利益を還流させていれば、二〇〇八年度までは約40%、それ 以降は5%の課税を受けていたとみられる。  こうした東電の姿勢について、税制に詳しい名古屋経済大学大学院の本庄資(たすく)教授は「現行税制では合法」としつつ、「公的支援を受ける立場を考え ると、企業の社会的責任を問われる問題だ」と指摘。会計検査院は蓄積した利益の有効活用を東電側に要求した。  東電担当者は「多額の税金が投入されていることは、十分認識している。国民負担最小化をはかる観点から、海外投資子会社の内部留保の有効活用は引き続き 検討したい」としている。
出典:東京新聞 TOKYO WEB
福島第一原発事故による経営危機で政府から1兆円の支援を受けている東京電力が海外で200億円の蓄財をしていたという事実をすっぱ抜いたスクープ記事だった。
また東京新聞一面では、この『東電 海外に200億円蓄財』のすぐ横に『浜岡増設同意 地元に53億円 中部電ひそかに寄付 80年代』という記事も載っている。
中部電力(名古屋市)が浜岡原発3、4号機の増設同意を旧静岡県浜 岡町(現御前崎市)から得た一九八〇年代に、公にした寄付金三十六億円と別に五十三億円を支払う約束を町と結んでいたことが分かった。本紙が秘密扱いの町 の文書を入手した。当時の町長は「金額を大きく見せたくなかった」と話し、寄付金と別の「分担金及び負担金」の項目で会計処理していた。   同社と町は増設同意時に、3号機の八二年八月に十八億七千二百万円、4号機の八六年四月に十八億円の寄付金(協定書上は協力費)を同社が町に支払うとの 協定書を公表していた。  入手したのは七〇~八七年度の同社との金銭授受などを示す御前崎市教委保管の旧浜岡町分「原発関係文書」。協定書と別に、確認書と覚書があった。  3号機の協定書と同じ日に、別に二十九億二千八百万円を支払う確認書が交わされた。町の地域医療の整備計画が具体化した時点で「応分の協力措置をとる」 との記述があり、八四年十二月に覚書を交わした十七億円の寄付は、確認書に沿ったとみられる。  4号機でも同様に、六億八千百万円の確認書と十七億円の覚書を交わした。  当時の鴨川義郎元町長(86)は非公表を「中部電側の意向。隣接自治体の嫉妬があり派手に見せたくなかった」と説明。数年に分け金額を少なく見せたとい う。  中部電力本店広報部の話 地域との共存共栄や発電所の安定的な運営のために必要と判断すれば、要請に基づき協力金を出すことはある。相手があるので、個 別具体的な内容については回答を差し控える。
出典:東京新聞 TOKYO WEB
こちらも電力会社と地元自治体との密約を暴いたスクープ。
東京新聞の元日の一面の記事からは2つのことが読み取れる。
それは東京新聞が2014年も当局が発表する情報を元にした「発表報道」ではなく、記者個人の問題意識を重視した「調査報道」に徹するという覚悟を持っているということ。
さらに、東京新聞としては、原発の問題を報道の核として位置づけていくという覚悟を持っているということだ。
報道された内容も見事だったが、他の新聞とは明確に一線を画した姿勢が明快だった。
こうやって読み比べてみると、東京新聞のクリアさが明らかな一方で、新聞社としての覚悟をどこに置くのか不明な朝日新聞の一面トップの曖昧 さがとても気になる。毎日や読売の問題意識と比べても、芯が通っていない。リーディングペーパーとしての朝日新聞の立場を考えると不安を覚える。「報道の 自由」を制約するのが明らかな特定秘密保護法が誕生した現在、ジャーナリズムとして何をどう報道していくのかは国民の「知る権利」に直結する。その覚悟が 希薄な印象だ。
一年の計は元旦にあり、とよく言われる。
これまで見てきた通り、元日の一面トップを見れば、その新聞のその後の1年間の価値が分かる、というのが私の持論だ。
読者もぜひ正月の新聞記事を読み比べてみて、自分が購読する新聞を精査してほしい。

2014年1月1日水曜日

2014年1月1日の東京新聞のスクープ

 正月の新聞各紙の1面は、だいたいその新聞がその年、力を入れるテーマが凝縮されることが多い。
 そう思って注目していたら、東京新聞の1月1日。

「東電 海外に200億円蓄財」「公的支援1兆円 裏で税逃れ」「免税国オランダ活用」の見出し。

 東電が海外の発電事業に投資して得た利益を、日本で納税していない状態であることをスクープした。違法ではないけれども、公的資金を注入されている企業としてのモラルが問われる問題だ。

 同じ1面には「浜岡増設同意 地元に53億円 中部電ひそかに寄付 80年代」という見出しもある。

 これは中部電力が浜岡原発3、4号機の同意を地元自治体の旧浜岡町から増設の得た80年代に、公表していた寄付金36億円の他に、53億円を支払う契約を町と結んでいたというスクープだ。秘密扱いの文書を東京新聞が入手し、当時の町長らの証言を得たという。

 この2つのスクープとも見事な「調査報道」だ。

 東京新聞は2014年も役所が発表する「発表報道」に頼らず、独自に調査していく「調査報道」に力を入れていく、というメッセージになっている。
 
 特に「原発報道」に力を入れていくというメッセージでもある。

 東京新聞には今年も期待できる。

 他の新聞各紙(特に全国紙)は、言っちゃあなんだが、どうでも良いようなことを大きく一面トップにしている。朝日新聞など、「めざす 世界の1% 済州島に英語都市」という見出し。2014年。少子高齢化が進む日本で、政府が英語教育に力を入れようypするなかで、先進の国や地域ではこうやっているよというルポだ。
 
 みんなが英語を話せるグローバル人材が必要という路線の中でのルポだ。

 これが朝日新聞が今年、力を入れていくメッセージというわけだ。

 こちらはちょっと悲しくなる。どこかの紙面に載せても良いけれど、これが元日の1面トップか。







ヤバいものに手を出さない利口な記者たち






 NHKの報道が明らかにおかしい。
 「政権への配慮」が露骨なのだ。
 経営委員に「首相のお友だち」が多数送り込まれ、松本正之会長おろしが決定的になっていく流れと歩調を合わせて政権批判のトーンは影をひそめ、政治的な争点になりそうな問題については「うわべだけ」しか報道しない。
 明確だったのは特定秘密保護法をめぐる報道だった。とりわけ「大人がじっくりと見る時間帯」の主力ニュース番組『ニュースウォッチ9』で、あからさまなほどの「配慮」が見え隠れする。
 同番組は、自公両党が特定秘密保護法案の国会提出で合意した10月22日、「ホット炭酸」が流行している、という話題を長く報じた後に短く触れただけだった。それ以降の『ニュースウォッチ9』はテレビ報道の経験者としてみたところ、特定秘密保護法案に関して完全に「手を抜いた」と評価して良い。
 特定秘密保護法に関しては、何が「特定秘密」に該当するかは、法律の根幹にかかわる重大な問題だ。ニュースで伝えるべき「肝」の部分だと言ってよい。
 国民の知る権利に報道の自由がどういう場合に制限されるのか。西山事件のようなケースはどうなのか。TPPはどうか。尖閣諸島での海保のビデオは特定秘密なのか。原発に関する報道や情報配信はどこまで許されるのか。内部告発者の取り扱いはどうか。こうした問題が10月から12月にかけて、議論になった。国会でも議論になり、また、与党の責任者や大臣らも口にした。新聞も民放のニュース番組でもそうした争点についてときおり報道された。
 ところが『ニュースウォッチ9』を始めとするNHKのニュースや報道番組ではそうした詳細が一切出てこなかった。「細かいことは報道しない」という姿勢が露わなのだ。国会での論議らしいやりとりが放送されたのは12月4日の党首討論ぐらいだろう。
 その日でさえ『ニュースウォッチ9』の配慮はあからさまだった。
 テレビ朝日の『報道ステーション』はトップニュースで党首討論を扱い、安倍首相がこの日になって初めて保全監視委員会などの組織名を明らかにしたという付け焼刃ぶりを報道した。この後で海江田・民主党代表による質問と安倍首相の答弁を長い時間をかけて放送。とりわけ、特定秘密の指定が適切かどうかのチェックをする機関を官僚が担う点を「官僚による官僚のための機関だ」とする海江田代表の追及に対して、安倍首相は防戦に回っていた。安倍首相の緊張している様子も映像で強調されていた。
  『ニュースウォッチ9』はどうだったか。トップニュースは北朝鮮の権力中枢での粛清の話で、権力の不安定化によって安全保障面で不安が広がるとして、北朝鮮によるサイバー攻撃を特集した。元担当者の話として「日本もサイバー攻撃の対象」だとする内容。次のニュース項目がバイデン米副大統領による訪中で、中国による「防空識別圏」の問題。このように2つ続けて、近隣諸国との軍事的緊張の話だった。特定秘密保護法を早く成立させてアメリカと軍事的な情報を共有する必要がある、と暗に強調する並びだ。
 その後で、やっと特定秘密保護法案の国会審議のニュースになった。『報ステ』ほど安倍首相や海江田代表の質疑のやりとりに長く時間を割いていないので、『報ステ』で印象づけられた安倍首相の緊張ぶりや苦しい答弁という印象はほとんどなかった。
 NHKは、特定秘密保護法案の報道は、あくまで政治ニュースとして伝える姿勢に徹し、賛成、反対の各政党の声を伝えるものの、どういう問題点があるのか、弁護士や作家、ジャーナリストがなぜ反対しているのかに踏み込んで詳しく伝えることはなかった。
 今回の法案審議でたびたび話題になった西山事件など過去における表現の自由の制限の歴史やそれに関する政府の見解や反対する人たちの見解を詳しく伝えることもしなかった。特に異様だったのは、どんなニュースでも記者や解説委員がスタジオに登場してきて解説するのがNHKのお決まりのスタイルなのに、この問題に関しては、審議途中での解説委員の登場はほとんどなかった。法案可決が確実となった最終段階でアリバイ程度に出てきたものの新聞の解説面をごく簡単にまとめたような浅い内容だった。
 国民の知る権利にかかわる問題だという点を考えれば、「手抜きぶり」は犯罪的と言っても良いほどだ。
 11月26日の衆院の安全保障特別委員会。12月5日の参議院の安全保障特別委員会。
 「強行採決」が行われた日に他の新聞や民放のニュース番組が「強行」という言葉を使っていたのに、NHKは「強行採決」とは呼ばなかった。
 これらの報道姿勢は、実は「NHKの新しい会長には安倍首相の意向を受けた人物が就任する」ということを前提として報道局の幹部たちが「配慮」したものだとNHK内で囁かれている。「みなさまのNHK」ならぬ「安倍さまのNHK」に変貌しつつあると。
 具体的な名前はまだ分からないものの、どのみち「安倍さまのお友だち」がやってくる、と職員たちは覚悟していた。「後から偏向報道だと政財界に突っつかれるようなヤバいテーマには手を出さないに限る」というような保身が、一連の特定秘密保護法に関する報道姿勢につながったのは間違いない。
 次期会長の具体的な名前が決定したのは12月20日。
 NHK経営委員会が籾井勝人・元三井物産副社長を次の会長として選出した。直接的に安倍氏と接点がある人物ではないと言われているが、この10日前に安倍首相は東京・南麻布の日本料理『有栖川清水』で葛西敬之JR東海会長、古森重隆富士フイルムホールディングス会長と食事をしている。葛西氏は来年1 月24日で任期満了になる松本正之会長(元JR東海副社長)の元上司。古森氏は元NHK経営委員長で安倍氏とは昵懇の仲だ。ここで籾井次期会長の人事が首相の了解で本決まりになったと見られている。これでは直接的な「お友だち」でなくとも、安倍首相の意向を受けての会長人事といえるだろう。
 さて、その籾井氏は、選出当日の記者会見で「公正中立」「不偏不党」という言葉を強調した。
 「非常に重責のポジションであり、ぶれない経営をこころがけていきたいと思いますし、公正中立、不偏不党ということを確実に実行する必要があると思っております。常に原点回帰。それはつまり、放送法第1条、これに回帰することによって、NHK全体の力をそこに結集し、一丸となって公共のためにお役に立てるNHKにするという、こういう業界の文化をつくり出すことができれば大変に幸せだと思っている」。
 「新会長」が強調した放送法第1条は、放送法の目的が記されている条文だ。
 (目的) 第1条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。 1.放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。 2.放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。 3.放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。
 条文の全体では、「放送による表現の自由」や「健全な民主主義の発達に資する」という言葉も見られる。しかし、会見で籾井氏は条文から「公正中立」「不偏不党」という言葉をあえて強調している。ここからは、あたかもNHKの報道が「公正中立」「不偏不党」ではないとするかのような評価が見え隠れする。
 週刊文春12月26日号には、「“NHK新会長”籾井勝人氏が語る『偏向報道』と『九州人脈』」という記事が載っている。
 安倍首相がNHKの“偏向報道”を懸念しているようだが、という質問への籾井氏の答えは、NHKを含めてテレビの報道は偏向している、という見解を示している。
 「それはNHKに限らず、テレビの報道は皆おかしいですよ。例えば、『反対!』っていう人ばかり映して、『住民が反対している』と。じゃあ何人デモに来ていたか、というのを言わない。僕は言うべきだと思っている。賛成と反対があるならイーブンにやりなさい。安倍さんが言っているのはそういうことですよ。何も、左がかっているから右にしろと言っているわけではないと僕は理解しています」
 文春の記事を読む限り、籾井氏の言う「不偏不党」というのは、いろいろな問題を報道するにあたって、誰が賛成で誰が反対で、それぞれ賛成派と反対派の人数を数量的に明示せよ、というものらしい。長年、テレビ報道の現場に身を置いてきた経験で言うなら、こうした「不偏不党」の見識は主として映像を使うテレビうメディアについて無理解という他はない。
 映像があり、放送する時間の制限もあるテレビでは、逐一、“数量的な公平”を意識していたら、モノを伝える、ということがほとんど不可能になってしまう。1つのシーンごとにそうした厳密な情報まで入れ込んで行ったら、ニュースの情報が膨大になってしまって、とても現在のニュース枠では足りなくなってしまうだろう。選挙期間中の選挙のニュースを思い浮かべてもらえばよい。それぞれの政党が言いたいことを言っている言葉を整理もせずに垂れ流すだけの報道。”数量的な公平“を言い出すとあのような無味乾燥な報道になりかねない。
 NHKの報道が国際的にみても優れている点はどのドキュメンタリーの質の高さにある。ドキュメンタリーというジャンルは、1つずつ事実を積み重ねて展開し、取材の結果の「真実」や「問題提起」に収れんしていく。このため、個々のシーンごとに”数量的な公平”などを言い出したら作品は成立はしない。
 籾井“新会長”が会見で強調したことがそのまま踏襲されるなら、下手をすると、これまで培ってきた「ドキュメンタリーのNHK」の伝統を根本から破壊してしまうのではないか。それがとても気がかりだ。
 「公正中立」「不偏不党」を言うなら、特定秘密保護法案に関する報道を詳細に検証してほしい。『ニュースウォッチ9』を他の局と見比べてみてほしい。どこが「公正中立」で「不偏不党」だろう。
 「ヤバいものには手を出さない」という逃げの一手を続けているだけなのだ。
 「うわべだけの報道」に徹しているだけなのだ。
 こんなふうに早くも”お利口さ”を発揮する記者や制作者ばかりで大丈夫なのか。
 それが放送法第1条に書かれた。「放送が健全な民主主義の発展に資すること」になるかどうかは明らかだろう。
 今後のNHKの報道姿勢は、視聴者の側から一つ一つ注意をして、おかしな方向へ向かわないように声を上げていくほかない。
 NHKは国営放送ではなく、公共放送。
 国家のためのものではなく、視聴者のためのメディアなのだから。